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- 発達障害や高次脳機能障害などで、生活に支援が必要な方
- けがや病気の後、日常生活の動作(食事・着替え・入浴など)を取り戻したい方
- 心の病気によって社会参加や就労に不安を抱えている方
- 自分らしい生活や趣味活動を続けたいと考えている方

作業療法士(OT)とは?定義をわかりやすく解説
作業療法士(OT)とは、心や体に障害を持つ人が「自分らしい生活」を取り戻せるようにサポートするリハビリ専門職の一つです。
対象は、着替えや食事といった基本的な動作から、家事・仕事・趣味・社会参加に至るまで幅広い「作業」です。
医師や理学療法士、看護師などと連携しながら、利用者の暮らしに直結する支援を行う点が特徴です。
一般社団法人日本作業療法士協会によると、以下のように定義されています。
「身体や精神に障害がある人、あるいはそれが予測される人に対して、日常生活や社会生活に必要な『作業』を通じて、心身の機能回復や維持・開発を図り、その人らしい生活を実現することを目的とする専門職」 |
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また、理学療法士及び作業療法士法(昭和40年法律第137号) では、以下のように定義されています。
法律上の定義
第2条 この法律で「作業療法」とは、身体に障害がある者又は精神に障害がある者に対し、その応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。 第3条 作業療法士(OT)とは、厚生労働大臣の免許を受けて、医師の指示の下に作業療法を行うことを業とする者をいう。 日本作業療法士協会による定義(2018年改訂) 作業療法士(OT)は1965年(昭和40年)に国家資格として誕生し、法律で定義が示されています。一方、日本作業療法士協会は専門職団体として1985年に独自の「作業療法の定義」を策定し、活動の基盤としてきました。 その後、社会の変化や対象者の多様化に伴い役割が広がったことから、33年ぶりに改訂が行われ、2018年5月26日の定時社員総会で承認されました。 |
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作業療法士(OT)の役割
作業療法士(OT)の役割は、単に身体機能を回復させるだけではありません。生活歴や価値観をふまえたリハビリを通じて、精神的な安定や社会生活への適応を支えることも大きな使命です。
対象は立ち上がりや歩行などの基本動作から、食事・入浴・着替え・家事・仕事・趣味などの応用動作、さらには地域活動や就労支援まで多岐にわたります。
利用者一人ひとりの「生きる力」を引き出し、生活の質(QOL)を高めることが作業療法士の役割です。
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作業療法士(OT)の仕事内容
ここでは、作業療法士(OT)が日々どのような支援を行っているのかを解説します。基本的なリハビリにとどまらず、生活全般や社会参加に直結する幅広いサポートを担う点が大きな特徴です。
心と体を支えるリハビリの専門性
作業療法士(OT)は、単に身体機能を改善するだけでなく、生活全体を見据えたリハビリを行う専門職です。
例えば、立ち上がりや歩行といった基本動作の訓練に加え、木工・手芸・絵画・書道・レクリエーションなど多様な作業活動を活用し、心身機能の向上と生活リズムの安定を促します。
さらに、精神疾患・発達障害・認知症のある方に対しても、心のケアや社会復帰の支援を行い、再発防止や自立した生活の実現を後押しします。
作業療法士は身体と心の両面を支えるリハビリの専門家といえます。
具体的な支援内容
作業療法士(OT)の支援は、ベッドからの起き上がりや車いすへの移乗、食事や入浴、衣類の着脱といった基本動作の訓練だけにとどまりません。
調理・洗濯・掃除などの家事や、買い物・金銭管理・公共交通機関の利用といった実生活に直結するスキルも対象です。
また、うつ病や発達障害のある方には、スケジュール管理や余暇活動の提案、対人関係のトレーニングを行い、生活リズムの安定や自信の回復をサポートします。
このように、利用者一人ひとりの生活に即した具体的な支援を提供することが、作業療法士の大きな特徴です。
生活の質(QOL)向上へのアプローチ
作業療法士(OT)が目指す最終的なゴールは、利用者の生活の質(QOL)を高めることです。
単に動作を回復させるのではなく、「自分らしく生きる」「社会とつながる」「役割や楽しみを持つ」といった生活の実現を大切にしています。
そのために、利用者の生活歴や価値観をふまえた作業活動を取り入れ、身体機能の改善と同時に意欲や達成感、自尊心を回復させます。
さらに、社会参加や就労支援を通じて孤立を防ぎ、生きがいや役割を見出すことを支援します。作業療法士(OT)は、生活そのものを豊かにするための専門的なアプローチを担っているのです。

作業療法士(OT)が活躍する主な職場
ここでは、作業療法士(OT)がどのような現場で働き、どのような役割を果たしているのかを紹介します。医療・福祉だけでなく、教育や地域、産業領域まで幅広いフィールドで活躍しています。
【医療分野】病院・リハビリ施設
病院やリハビリテーション施設では、発症直後や手術後の患者に対し、早期から機能回復と日常生活への復帰を目指したリハビリを行います。
急性期ではベッド上での基本動作を中心に、回復期では生活に即した動作訓練へと進め、退院後の自立をサポートすることが特徴です。
また、慢性期の患者に対しては、生活の質を維持・向上させるための長期的なリハビリも担います。
医療分野における作業療法士(OT)は、医師や理学療法士と連携し、治療から生活支援まで一貫したケアを提供しています。
【福祉分野】介護老人保健施設・在宅支援
介護老人保健施設やデイケアでは、高齢者の自立支援と在宅復帰を目的としたリハビリを提供します。調理や掃除などの家事訓練や、福祉用具を活用した生活動作の工夫を通じて、家庭での暮らしを続けやすくします。
訪問リハビリにも携わり、在宅での生活環境を直接確認しながら支援を行うことも特徴です。
福祉分野における作業療法士(OT)は、高齢者が「できることを活かして暮らす」ための伴走者として重要な役割を担っています。
【教育・発達支援分野】特別支援学校・児童福祉施設
発達障がいや肢体不自由のある子どもに対しては、学校生活や遊びを通じて成長を促す支援を行います。
特別支援学校や児童発達支援センターでは、書字や運動、社会性を育む活動を取り入れ、学習や集団生活への適応を支えます。
また、家庭や教師と連携し、一人ひとりに合わせた支援計画を立案することも重要です。
作業療法士(OT)は、子どもたちが将来の自立に向けて「生活の基盤となる力」を身につけられるよう、教育現場でも大きな役割を果たしています。
【地域・産業分野】地域包括支援センター・職場復帰支援
地域包括支援センターでは、高齢者を対象とした介護予防プログラムや生活支援活動を行い、地域社会での自立を支えます。
また、企業ではうつ病などで休職した社員の職場復帰をサポートする「リワークプログラム」に携わる作業療法士もいます。
地域・産業領域での活動は、医療や介護にとどまらず、地域住民や働く世代の生活支援にも広がっているのが特徴です。
こうした多様な場での活躍を通じて、作業療法士(OT)は社会全体の健康と幸福の向上に貢献しています。
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作業療法士と理学療法士の違いは?
理学療法士は「立つ・歩く」など基本的な身体機能の回復を担当し、作業療法士(OT)は「食事・着替え」など日常生活や社会参加に必要な応用動作を支援します。
両者とも国家資格が必要で、連携して利用者の自立を支えます。
項目 | 理学療法士 | 作業療法士(OT) |
---|---|---|
主な対象 | 身体機能の基本動作 | 日常生活・社会活動 |
代表的支援 | 歩行訓練、関節運動 | 食事、着替え、家事、就労 |
特徴 | 体の大きな動きを回復 | 心と体の両面を支援 |
活躍分野 | 病院、スポーツ分野 | 病院、福祉、精神科、地域 |
利用者の状態に応じて、理学療法士と作業療法士(OT)が役割を分担しながら総合的にリハビリを行います。

作業療法士(OT)になるには?
作業療法士(OT)を目指すには、養成課程で専門知識と技術を学び、国家試験に合格する必要があります。
資格を取得した後は、病院や福祉施設、教育現場など幅広いフィールドで活躍できます。ここでは、養成校の選び方から国家試験、就職までの流れを解説します。
作業療法士(OT)の養成課程のある学校に通う
作業療法士(OT)を志す場合、まずは養成課程を設けている大学・短期大学・専門学校に進学し、カリキュラムを修了する必要があります。
基礎医学や心理学、リハビリ関連科目を学び、臨床実習を通じて実践力を身につけるのが特徴です。
4年制大学では幅広い学びと研究の機会があり、3年制短大や専門学校ではより早く現場に出られる点がメリットです。将来のキャリア像を意識して、自分に合った学びの場を選びましょう。
作業療法士の国家試験を受験する
養成課程を修了すると、作業療法士国家試験の受験資格が得られます。試験は年1回実施され、解剖学・運動学・臨床医学などの基礎分野から、作業療法学に関する専門知識まで幅広い範囲が問われます。
筆記試験は「一般問題」と「実地問題」に分かれ、臨床現場での実践力も求められる内容です。
直近の合格率はおおむね70〜85%前後で推移しており、合格すれば作業療法士として働くための免許を得られます。
病院や福祉施設で働く
国家資格を取得した後は、病院やリハビリ専門施設、介護老人保健施設、在宅サービス事業所など、さまざまな現場で働くことができます。
病院では発症直後の急性期から回復期の患者を支援し、介護施設では生活を維持するための集団リハビリや環境調整を行うのが特徴です。
どの職場を選ぶかによって必要なスキルや関わり方は異なるため、自分が将来どのような作業療法士を目指したいのかを考えながらキャリアを選択していくことが大切です。
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作業療法士(OT)の国家試験の概要
作業療法士(OT)の国家試験は、養成課程を修了した人が年1回受験できる筆記中心の試験です。
例年2月に全国の主要都市で実施され、一般問題と実地問題で知識と臨床判断力が問われます。最新の実施要項は必ず公式情報で確認しましょう。
試験日程と受験資格
作業療法士国家試験は例年2月に実施され、合格発表は3月下旬が目安です。
受験には、文部科学省や都道府県が指定する作業療法士養成施設で3年以上の課程を修了(見込み含む)していることが条件です。
全国8地域程度で筆記を行い、視覚障害等のある受験者には配慮(点字、読み上げ、時間延長)も用意されています。出願期間・提出先・手数料は年度で変わるため、告示の原文での確認が必須です。
主なスケジュール(目安)
区分 | 目安時期 | 補足 |
---|---|---|
出願 | 12月〜1月上旬 | 期日厳守・書留が一般的 |
筆記試験 | 2月下旬 | 全国数カ所で実施 |
合格発表 | 3月下旬 | 公式サイトに掲出 |
試験地の例
北海道/東北(宮城)/関東(東京)/中部(愛知)/近畿(大阪)/四国(香川)/九州(福岡・沖縄)
試験科目と出題形式
筆記試験は一般問題と実地問題で構成されています。一般問題は基礎〜臨床の幅広い知識を、実地問題は症例を踏まえた臨床思考を問います。
形式はマークシートで、午前・午後の2部制(各160分が目安)。過去問演習×出題基準の把握が得点源づくりの基本です。
実地は設問文が長く時間配分が肝心だといえます。基礎科目の横断整理と、ガイドライン・評価法の用語確認を習慣化しましょう。
出題領域(公式区分に準拠)
- 一般問題:解剖学/生理学/運動学/病理学概論/臨床心理学/リハ医学(概論含む)/臨床医学大要(人間発達学含む)/作業療法
- 実地問題:運動学/臨床心理学/リハ医学/臨床医学大要/作業療法
形式の目安
区分 | 目安配点・問題数 | 時間 | ねらい |
---|---|---|---|
一般問題 | 多肢選択・多数 | 午前160分 | 知識の広さ・正確さ |
実地問題 | 症例ベース・多肢 | 午後160分 | 判断・根拠提示力 |
合格基準(作業療法士)
作業療法士国家試験では、単に総合得点だけでなく、実地問題の得点基準も満たす必要があります。
知識と臨床判断力の両方がバランスよく問われるため、基礎学習と症例対策の双方をしっかり行うことが合格への近道です。
区分 | 配点方式 | 満点 | 合格基準 |
---|---|---|---|
一般問題 | 1問=1点 | 160問で159点満点(1問1点、1問除外) | ― |
実地問題 | 1問=3点 | 40問で120点満点(1問3点) | 43点以上 |
合計 | ― | 279点 | 総得点168点以上 |
上記のとおり、合格ラインは「総得点」と「実地問題」の両条件をクリアすることが必須です。
実地の得点が不足すると不合格になるため、過去問演習を通じて症例読解のスピードと要点抽出を磨くことが大切です。
合格率と難易度の目安
作業療法士国家試験の合格率はおおむね80%前後で推移しています。
区分 | 人数 | 合格率 |
---|---|---|
出願者数 | 5,920人 | ― |
受験者数 | 5,693人 | ― |
合格者数 | 4,887人 | 85.8% |
新卒(受験者数5,000人) | 4,625人合格 | 92.5% |
出典:第60回理学療法士国家試験及び第60回作業療法士国家試験の合格発表について|厚生労働省
基礎の取りこぼしが少ない人ほど有利で、実地問題は症例把握→評価→介入の流れを短時間で組み立てる練習が効果的だと言えるでしょう。
合格基準は総得点と実地問題の基準の双方クリアが基本のため、実地対策を軽視しないのが鉄則です。
直前期はタイムトライアルで本番ペースに慣れ、弱点領域は出題頻度の高い論点から優先的に潰していきましょう。
直近の傾向(ポイント)
項目 | ポイント |
---|---|
合格率 | およそ 80%台で安定 |
実地重視 | 症例文の読解スピード と 要点抽出 が決め手 |
学習戦略 | 出題基準 → 過去問5年分 → 模試で時間管理 の順に強化 |
学習チェックリスト
- 出題基準の最新版を読み込んだ
- 過去問5年分を回数×根拠付きで反復
- 実地は「評価→目標→介入」のテンプレを習得
- 午前・午後各160分の模試で時間配分を確立
※本ページは受験生向けの要点を整理したものです。日程・会場・出願方法・手数料などは必ず最新の公式発表で確認してください。
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統計データから見る作業療法士の働き方・平均年収
作業療法士(OT)は需要が高まり続ける職種であり、統計データからもその労働条件や就業環境が見えてきます。
年収水準、労働時間、有効求人倍率は、医療・福祉業界の中でも特徴的な傾向を示しています。ここでは最新調査に基づき、客観的な数値を整理しました。
項目 | 数値 |
---|---|
平均年収 | 約444.2万円 |
月平均労働時間 | 約159時間 |
時間当たり賃金(一般) | 2,257円 |
時間当たり賃金(短時間) | 2,423円 |
有効求人倍率 | 4.26倍 |
年収・賃金水準
令和6年賃金構造基本統計調査によると、作業療法士(OT)の平均年収は 約444万円となっています。
時給換算では一般労働者で 2,257円/時間、短時間勤務の場合は 2,423円/時間 です。これは全産業平均とほぼ同水準ですが、医療・福祉分野の専門職として安定性が高く、地域差も見られます。
労働時間
月あたりの平均労働時間は 約159時間 とされており、他の医療従事者に比べて夜勤や長時間労働が少ないのが特徴です。
ただし勤務先によっては宿直や休日対応が必要な場合もあり、職場の勤務形態によりばらつきが出ます。
求人倍率
令和6年賃金構造基本統計調査の結果によると、有効求人倍率は 4.26倍となっています。全国平均を大きく上回る水準であり、人材不足が顕著な職種です。
高齢化に伴うニーズ拡大や地域リハビリの強化を背景に、今後も安定した求人需要が見込まれます。
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作業療法士のやりがい・魅力は?
作業療法士(OT)の魅力は、利用者の「できること」を一緒に広げていける点にあります。
身体機能の回復だけでなく、趣味や社会参加を支えることで人生そのものに寄り添えるのが大きなやりがいです。ここでは作業療法士(OT)ならではの魅力を具体的に紹介します。
利用者の「できること」を増やせる喜び
作業療法士(OT)の最大のやりがいは、利用者が日常生活で「できること」を一つひとつ取り戻していく姿に立ち会えることです。
食事や着替えといった基本的な動作から、趣味や仕事、社会活動まで対象は幅広く、利用者の生活そのものを支える役割を担います。
たとえ小さな進歩であっても、その積み重ねが本人や家族にとって大きな意味を持ちます。利用者と共に目標を設定し、それを達成できたときに得られる達成感は、作業療法士(OT)ならではの大きな喜びです。
生活に直結する支援で感謝される
作業療法士(OT)の支援は、日々の生活に密接に関わっています。例えば、入浴動作や調理、買い物といった活動の練習を通じて、利用者が自宅で安心して生活できるように支えます。
このように生活に直結したリハビリは、利用者やその家族から「毎日の暮らしが楽になった」「自分らしさを取り戻せた」と感謝の言葉をいただけることが多いです。
単に身体機能を回復させるのではなく、生活そのものを豊かにする支援である点が、大きなやりがいにつながっています。
幅広い分野でキャリアを築ける可能性がある
作業療法士(OT)は病院や介護施設だけでなく、地域包括支援センター、特別支援学校、企業の職場復帰支援など幅広い分野で活躍できます。
高齢化社会の進展により介護分野での需要は増加し、また精神疾患や発達障害の支援、就労支援など新たな活躍の場も広がっています。
専門性を活かしながら、自分の興味や強みに合わせてキャリアを築けるのは大きな魅力です。多様な現場で経験を積むことで、自身の成長やキャリアアップにもつながります。
人の成長や回復を間近で感じられる
作業療法士(OT)は、利用者の心身の変化を最も近くで見守れる存在です。リハビリを通じて「昨日はできなかったことが今日はできるようになった」という成長を実感できるのは、非常に大きなやりがいだと言えるでしょう。
また、身体的な回復だけでなく、意欲や自信を取り戻して笑顔が増えていく過程を支えられることも魅力の一つです。
回復の過程を共に歩むことで、利用者と深い信頼関係を築ける点も作業療法士(OT)ならではのやりがいといえるでしょう。
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作業療法士(OT)のデメリット
作業療法士(OT)は生活に寄り添える魅力的な専門職ですが、実際に働く上では注意すべき課題もあります。ここでは代表的なデメリットを3つ紹介します。
給与水準が高いとはいえない
作業療法士(OT)の平均年収は約440万円と安定しているものの、他の医療系専門職に比べると高いとはいえません。
特に薬剤師や放射線技師と比べると差があり、キャリアの初期には生活面で不安を感じる人もいます。また、昇給の幅は勤務先によって差が大きく、病院や施設の経営状況に左右されやすいのも実情です。
とはいえ、経験を積んで役職に就いたり、認定作業療法士などの資格を取得することで収入アップを目指せます。給与水準の課題は、専門性を高める努力や働き方の工夫でカバーできる部分もあります。
身体的・精神的な負担がある
作業療法士(OT)は患者の生活動作をサポートするため、移乗や介助で身体的な負担を感じることがあります。
高齢者や重度障害のある方を支える場面では、腰痛など身体への影響が出やすいのも課題です。また、リハビリの成果がすぐに現れない場合や、患者・家族の葛藤に向き合う中で精神的な疲労を抱える人も少なくありません。
ただし、職場によっては福祉用具やリフトを導入して負担を軽減しており、チームで連携して対応する仕組みも整いつつあります。自己管理と環境整備を意識すれば、無理のない働き方が可能です。
専門性維持のため継続的な学習が必要
医療・福祉の分野は常に新しい知見や技術が生まれるため、作業療法士(OT)には学び続ける姿勢が求められます。
養成課程で得た知識だけでは十分ではなく、研修や学会参加、専門書の学習などを通じて自己研鑽を重ねる必要があります。
さらに、認定作業療法士や専門作業療法士など上位資格を目指す場合は、一定の実務経験や研修参加が条件となり、学習と実務を両立させる努力が欠かせません。
学び続けることは負担に感じる一方で、自身の専門性を高め、キャリアの幅を広げる大きなチャンスでもあります。

作業療法士(OT)に求められる資質・スキル
ここでは、作業療法士(OT)として活躍するために必要な資質やスキルについて解説します。
専門知識はもちろん、利用者との信頼関係を築くためのコミュニケーション力や問題解決力、学び続ける姿勢が求められます。
コミュニケーション能力と共感力
作業療法士(OT)は、利用者本人だけでなく家族や医療チームと密接に関わります。そのため、相手の話を丁寧に聞き、気持ちをくみ取る共感力が不可欠です。
利用者が抱える不安や希望を理解し、信頼関係を築くことで、リハビリへの意欲や継続性が高まります。また、説明や指導をわかりやすく伝える力も重要です。
専門用語を噛み砕いて話すことで、利用者や家族が安心して取り組める環境を整えることができます。
問題解決力と観察力
作業療法士(OT)は、一人ひとり異なる症状や生活環境に合わせて最適な支援を組み立てる必要があります。その際に求められるのが「観察力」と「問題解決力」です。
動作の細かな癖や生活リズムを把握し、問題の根本原因を見極めることで、適切な訓練内容や生活改善の提案が可能になります。
加えて、目標達成に向けた計画を立案・修正する柔軟性も大切です。こうした力を発揮することで、利用者の自立や社会参加の実現に大きく貢献できます。
専門知識と継続的な学習意欲
医療や福祉の現場は常に変化し、新しい治療法や技術が導入されています。そのため、作業療法士(OT)には幅広い医学知識と、最新情報を学び続ける姿勢が求められます。
解剖学や生理学などの基礎医学に加え、リハビリテーション医学や臨床心理学など多分野の知識を応用することが必須です。
さらに、学会や研修に積極的に参加し、専門性を高めていくことが、長期的なキャリア形成や信頼性の確立につながります。
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作業療法士(OT)のキャリアパスと関連資格
ここでは、作業療法士(OT)のキャリア形成の流れと、ステップアップに役立つ関連資格について紹介します。
臨床経験を積んだ後は教育や研究、管理職としての道も開かれ、認定・専門資格取得によって専門性をさらに高めることができます。
臨床現場での経験から専門分野への発展
作業療法士(OT)のキャリアは、病院や介護施設での臨床経験から始まることが一般的です。
数年の経験を経て、高齢者リハビリ、精神科領域、発達支援など特定の分野に特化して専門性を深める道があります。
臨床経験を重ねることで、より高度な技術を身につけ、患者ニーズに応じた専門的サポートを行えるようになります。
また、在宅医療や地域包括ケアの分野で活躍するケースも増えており、キャリアの幅は広がり続けていくでしょう。
教育・研究・マネジメント職へのキャリアアップ
臨床経験を積んだ後は、教育や研究分野への道も開かれています。大学や専門学校で作業療法士(OT)を育成する教員となったり、大学院へ進学して研究活動を行ったりすることが可能です。
また、病院や施設ではリハビリ部門のリーダーや管理職として、チームをまとめる役割を担うケースもあります。こうしたキャリアは、臨床スキルに加えてマネジメント能力や教育力が求められ、幅広い活躍の場を提供します。
認定作業療法士・専門作業療法士など関連資格
専門性を高めたい人には、一般社団法人日本作業療法士協会が認定する「認定作業療法士」「専門作業療法士」といった資格の取得がおすすめです。
資格名 | 特徴 | 活躍分野 |
---|---|---|
認定作業療法士 | 臨床経験+研修修了が条件 | 特定領域の高度臨床 |
専門作業療法士 | 各分野ごとに専門性を証明 | 教育・研究・高度臨床 |
福祉住環境コーディネーター | 住環境整備の知識を証明 | 在宅リハビリ、住宅改修 |
ケアマネジャー(介護支援専門員) | ケアプラン作成に従事 | 医療・介護連携 |
これらは特定領域での高度な知識・技術を証明するもので、キャリアアップや信頼性の向上に直結します。
また、地域包括ケアや介護予防に関する研修、海外資格との連携を視野に入れることも可能です。以下のような関連資格は、キャリアの選択肢をさらに広げます。
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作業療法士の一日のスケジュール
作業療法士(OT)の勤務スケジュールは、病院や施設の形態によって多少の違いがありますが、一般的な病院勤務では朝のミーティングから始まり、午前・午後にわたって患者ごとのリハビリを担当します。以下に一日の流れをまとめました。
時間帯 | 業務内容 |
---|---|
8:30 | 始業・ミーティング(予定共有、器具点検、環境整備) |
9:00~12:00 | 午前のリハビリ業務(ADL訓練、上肢・手指機能訓練、認知機能訓練など) |
12:00~13:00 | 昼食・休憩 |
13:00~16:30 | 午後のリハビリ業務(生活動作訓練、趣味活動、カンファレンス参加など) |
16:30~17:15 | 記録・事務処理、翌日の準備 |
実際の現場の様子
現場では、作業療法士(OT)が患者一人ひとりの「できること」や「やりたいこと」に寄り添い、温かい雰囲気の中でリハビリを進めています。
リハビリ内容は単なる運動訓練にとどまらず、食事・着替え・家事動作・趣味活動など生活に直結したものが中心で、患者のモチベーションや達成感を重視しています。
作業療法士(OT)は患者の体調や心理状態に合わせ、無理のないペースで進めることを心がけます。小さな成功体験を積み重ねることで自信や自己肯定感を高め、不安や抵抗感をやわらげながら継続できるようサポートします。
リハビリの合間には、患者や家族との対話を通じて悩みや不安に丁寧に対応することも重要な役割です。
さらに、作業療法士(OT)は医師・看護師・理学療法士・言語聴覚士・社会福祉士など多職種と連携し、定期的なカンファレンスや情報共有を行いながら、患者の在宅復帰や社会参加をチーム全体で支援しています。
このように、作業療法士(OT)の一日は、専門的な知識と技術、そして人に寄り添う温かさが融合した、やりがいのある現場となっています。作業療法士(OT)は、患者の生活に密着した支援を通じて、心身の回復と自立を後押しする重要な役割を担っており、医療・福祉の現場に欠かせない存在です。
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まとめ
作業療法士(OT)は、病気やけが、発達障害や精神疾患などによって生活に困難を抱える人を対象に、心身の機能回復や社会参加を支援する専門職です。
理学療法士との違いは、基本動作を扱う理学療法に対し、生活動作や社会適応に重点を置く点にあります。
資格取得には養成校での学習と国家試験合格が必要で、合格率はおよそ80%台と安定しています。
年収は約440万円前後で、医療・福祉・教育・地域分野など幅広く活躍可能です。
利用者の「できること」を増やすやりがいや、キャリアパスとして専門資格や教育職へ発展できる点も魅力。作業療法士(OT)は人の生活に密接に関わり、社会的にも重要性が高まる職業といえます。
よくある質問
Q.理学療法士と作業療法士(OT)の違いは何ですか?
理学療法士は「立つ・歩く」など基本的な運動機能の回復を中心に支援します。一方、作業療法士(OT)は食事・着替え・入浴などの日常生活動作や、就労・趣味・社会参加といった生活全般を支える点が特徴です。
両者は国家資格を有し、医療や福祉の現場で連携しながら利用者の自立をサポートします。
出典:作業療法士(OT) - 職業詳細 | 職業情報提供サイト(job tag)
Q.作業療法士(OT)の資格を取るためにはどうすればいいですか?
作業療法士(OT)になるには、文部科学大臣または厚生労働大臣が指定する大学・短期大学・専門学校などで3年以上学び、養成課程を修了する必要があります。
その後、国家試験に合格することで免許を取得できます。養成校では解剖学や心理学、リハビリテーション医学など幅広い分野を学び、臨床実習を通じて現場でのスキルを身につけます。
Q.作業療法士(OT)の年収はいくらですか?
厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、作業療法士(OT)の平均年収は約444万円です。月平均労働時間は約159時間で、時給換算では一般労働者で約2,257円とされています。
勤務先や地域、経験年数によって水準は異なりますが、医療・福祉業界の専門職として安定した収入が期待できます。
Q.理学療法士と作業療法士(OT)の給料は違いますか?
賃金統計によると、理学療法士と作業療法士(OT)の平均年収はほぼ同水準で、大きな差はありません。
理学療法士と作業療法士(OT)はどちらも年収約444万円とされています。ただし、勤務先や役職、地域によって変動します。
Q.理学療法士と作業療法士(OT)どっちが難しいですか?
国家試験の難易度は両者ともほぼ同等です。近年の合格率は理学療法士で約86%、作業療法士で約83%といずれも高水準に安定しています。
試験範囲や必要とされる知識には違いがありますが、いずれも基礎医学から臨床実習まで幅広い学びが求められるため、難易度に明確な優劣はなく、自分の適性や関心に応じて選択することが大切です。

海野 和(看護師)
この記事の監修者情報です
2006年に日本消化器内科内視鏡技師認定証を取得し、消化器系疾患の専門的な知識と技術を習得。2018年にはNCPR(新生児蘇生法専門コース)の認定を取得し、緊急時対応のスペシャリストとしての資格を保有。さらにBLS(HeartCode®BLSコース)を受講し、基本的生命維持技術の最新知識を習得。豊富な臨床経験と高度な専門資格を活かし、医療・介護分野における正確で信頼性の高い情報監修を行っています。
【保有資格】
・日本消化器内科内視鏡技師認定証(2006年取得)
・NCPR(新生児蘇生法専門コース終了認定証)(2018年取得)
・BLS(HeartCode®BLSコース)受講済み
